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●ラブストーリー春香伝 (2009.8.16) 

(9)道令様の裏切り

 この時、だしぬけに房子(パンジャ)が現れて、
「道令様! 使道(サト:父)様がお呼びでございます」

 道令様が帰ってきて、父のいるところへ入って行くと使道がおっしゃるには、
「おい! ソウルから同副承旨(トンブスンジ:承政院=王命を司った役所=の正三品の官職)の通達が下りて来た。私は文書や帳面の仕事を調査して処理してから行くので、お前は女達の旅行のお供をして今日にでも出発しなさい」

 道令様は、父の命令を聞いて一方では嬉しく思ったのですが、一方では春香のことを考えて胸が重苦しく、手足の脈が消え、はらわたが溶けるような思いでした。両目から熱い涙がぽろぽろとこぼれてきて、美しい顔を濡らすのでした。それを父である使道(さと)が御覧になり、
「お前はどうして泣くのだ? 私が南原(ナモン)で一生暮らすとでも思っていたのか? 内職に昇進するのだから名残を惜しむのはやめて、今日から旅支度を急いで整え、明日の午前中に出発しなさい」

 道令様はやっとの思いで返事をして退出し、内殿に入って行き、人の上中下を問わず、母親が最も話しやすいので春香の話を泣いて頼んでみましたが、お叱りだけを嫌という程聞かされたのでした。

 そして春香の家に行くことにしたのですが、悲しみで気が塞がり道端で泣くことも出来ず、堪えてはいましたが胸の中は肝も腸も断ち切られるような思いでした。春香の家の門前に到着すると胃の中の物が丸ごと、胃袋ごとどっと溢れ出すようでした。

「うっぷ、うぷ、げえっ」
と思わずしていると、
春香が、びっくりして驚き、さっと飛び出して来て、
「あぁ、どうしたのですか? 家にお帰りになって叱られでもしたのですか? 歩いて来られる途中で何か悔しい目にでもあわれたのですか? ソウルから何か知らせがあったそうですが、何か傷手を受けられたのですか? おとなしい道令様が、これはどういうことですか?」

 春香が道令様の首をひしと抱え、チマの裾を掴み、美しい頬に流れる涙をあちこち拭きながら、
「泣かないで下さい、泣かないで下さい」
道令様は気が塞いで、泣くのを止めさせようとすればするほど、もっと泣けて来るのでした。

 春香が腹を立てて、
「道令様! 顔を見たくありません。泣くのはやめて、今すぐ理由を話して下さい」
「使道様が同副承旨(トンブスンジ)に昇進されたのだ」
それを聞いて春香が喜んで、
「それはお宅にとっておめでたいことです。なのにどうしてお泣きになるのですか?」

「お前を捨てて行くことになるから、私は心配の余り重苦しい気分にならずにはおれないのだ」
「いつ、南原の地で生涯お住みになるだろうと思われたのですか? 今、私と一緒に行くことをどうして望めましょうか。道令様が、まず上京されるなら私もここで売るものは売って、追って上京しますから何も心配なさらないで下さい。私の言う通りなさったら、不都合なくうまく行くでしょう。私が上京しても、道令様のお宅に行ってあなたの本妻として住むことは出来ませんので、本宅の近くに小さな家でもつくってくだされば十分です。密かに探しておいて下さい。私の家族が行ってもただ飯は食べないつもりですから。このようにして、日が経てば、道令様の言うように結婚しないでいることが出来るでしょうか? 富貴栄華で宰相家の美しい淑女を選ばれて、朝晩にその父母に御機嫌伺いするようになったとしても、決して私を忘れないで下さい。道令様が科挙に合格され、官位が上り、愛人の部屋に行くならば、新しい科挙に合格した人が高官の愛人をもつとして、自分の愛人を表に出したとしても、悪い噂にはならないでしょう。そんなふうに考えて、やっていってください」

「そんなことが出来ると思うか? 実は私たちの事情とお前の話を、使道様に申し上げることは出来ず、母上に申し上げると大変に叱られたのだ。両班の息子が父兄について行って都から地方へ行き、愛人をつくり、それを連れて戻るという話は、将来の邪魔となり、朝廷に聞こえると官職にもつけないことがあるとおっしゃるのだ。それなので、やむをえないのだが、別れるより外に打つ手がないのだ」

 春香は、この話を聞くや否や顔色を変え落ち着きをなくし、赤くなったり青くなったり、目が半眼に開いたり、眉毛を吊り上げたりしながら、鼻をふくらませ、きりきりと歯ぎしりし、全身に力が入って口を曲げるようによじり、タカがキジをさらうような格好で座っていたのですが、
「はぁ、これは一体なんの話でしょう?」

 そして、ばっと跳ねてとびかかり、チマの裾をびりびりとずたずたに引き裂き、髪もばらばらにむしり取り、手で丸めて、道令様の前に投げつけながら、
「何が?!どうして?!なんなの?! こんなものいるもんか!!」
  そして、手鏡、姿見鏡、珊瑚の竹節をすべて叩きこわし、部屋の外にぽんぽんと投げ付け、足をばたばたと踏み鳴らし、手の平であたりをばんばんと叩き、背を向けて座って、自嘆歌で泣きながら歌った歌は、

「主人のいない春香はもう浮き世の暮らし。何のために化粧をして、誰の目のために美しく見せるのでしょうか。生まれの悪い女の運の定め。16歳の青春で、若いうちにこうなることを、どうして予測ができたでしょう。取るに足らないこの私の体が、空々しいお言葉で、行く末の長い生涯を捨てられたのも同然なのです。あぁ、あぁ、私の人生!」

 そして平然と向き直って、春香は言いました。
「あなた、道令様! たった今おっしゃったお言葉は本当の話ですか、冗談なのですか? 私達二人が初めて逢って百年の契りを結んだので、大夫人(母)と使道様がわざとさせたことなのでしょうか? それならば言い訳をするとは何ということでしょう。広寒楼でちらりとみかけて、私の家を訪ねて来て、薄暗く人気のない真夜中に、道令様はあそこに座り、春香は、いえ、私はここに座り、私におっしゃったお言葉は「固く結んだ約束を裏切ることはない」といって、去年五月端午の日の夜に私の手を握りしめ、ずんずんと外に出て部屋の中で堂々と立ち、耿々と澄んだ空を何千回も指差し何万回も誓ったので私は心から信じたのですけれども、結局都へ行かれる時に私をお捨てになれば、16歳の青春の若さで夫をなくしてどうして生きていくことができるでしょうか。薄暗いがらんとした部屋で長い長い秋の夜、この虚しい想いを一体どうすればよいのでしょうか。あぁあぁ、私の人生。

 ひどい、ひどすぎる! 残酷きわまりない! ソウルの両班は残酷だ! あぁうらめしい、うらめしい! 尊卑貴賎(そんぴきせん:身分制度)のすべてがうらめしい! 天下の優しい思いやりの中で、夫婦の情は格別ですが、こんなに残酷な両班が世の中にまたといるものか。あぁあぁ、私のこの有り様! 道令様、春香の身分が卑しいからといって、やたらにお捨てになっても、それでお終いと思わないで下さい。運命に惠まれない春香が、苦々しい口で食事がとれず、眠気がなくていつも眠らなければ、一体何日ぐらい生きられるとお思いですか?」

「恋の病にかかり本当に痛ましい。死ねば、悲しく怨めしいこの魂が浮遊霊となったとしても、お偉い道令様にはそのようなことは災難とも思われないでしょう。人間の扱いをそんなふうにしてはなりません。
 死んでしまいたい!あぁあぁ、悲しくてしょうがない!」
しばらくの間こうして命が尽きるほど嘆き、さめざめと泣いていると、春香の母がわけもわからずにつぶやいていました。

「あらまぁ、あのこ達は、また痴話喧譁をしているな。いづれにしても目障りだ。‘両方の目頭に横根が生じる’くらいしょっちゅう見せられるなぁ」
とつぶやいていました。

 しかし、いくら聞いていても泣き声が長く続いているので、していた仕事を休めて春香の部屋の戸の外にそっと近付いて行きました。すると、聞けば聞くほどそれは別れ話だったのです。
「おーっ! これは大変だ」
両手の平を、ぱちばちと叩いて、
「おーい!御近所の人、聞いて下さい。今日、私の所で人間が二人死ぬんです!」

 板の間の廊下を、素早く通って障子を叩き、わっと飛び掛かってこぶしを振り上げ、
「この娘!この娘は!さっさと死んでしまえ! 生きていても無駄なんだから。死んだお前の死骸を、その両班が持って行け。その両班が上京すれば、今度は誰の心をたぶらかすんだ? このばか娘、話を聞け。私がいつも話していたことを守らないから後悔することになるのだ。傲慢な心をやめて、身分相応の普通の人を選んで、暮らし向きと家柄がお前と同じで、才能と人物がすべてお前のような鳳凰みたいな相手と出会って、私の前で遊ぶのを見守れたのならば、お前にとってもよいことだし私も気持ちよかったのに。傲慢さが人なみ以上だったのか、このありさまを見てみろ!」
と母親は怒鳴り、両手の平をばんばんと叩きながら、今度は道令様の前に飛びついて、

「私とちょっと話をしましょう。私の娘、春香を捨てて行くということですが、何の罪があってのことですか? 春香が、道令様と連れ合ってから、まる一年になりますが、たしなみがよくないのか、礼節をわきまえないのか、針仕事が出来ないのか、言葉遣いが悪いのか、品行が淫らで娼婦のような淫乱な行いをしたのか、何が悪いのか?この辱めはどういうことですか? 君子が淑女を捨てるのならば、それはつまり七去之悪(妻を追い出す理由としての七つ事実)がなければ、捨てることが出来ないのを知らないのですか? 私の娘春香が、まだ幼いのに、夜も昼も愛して抱いたり、立ったり横になったりして百年の三万六千日間を離れては生きられないといって昼夜となく撫でたりしていたのに、結局行かれる時にはぷっつりと縁を切って捨てられるというのでしょうか。柳の枝が多くても、過ぎ行く春風を防ぐことが出来ず、花が散り、葉が散ったあとで、どんな蝶々がまた来るものか。白玉のような私の娘春香の花のような体も、歳月が経てば老いて、美しい顔が白首となれば、覆水盆に返らずで、再び若返ることは出来ないのを、どんな罪があって、その百年を無駄にさせるのでしょうか。道令様が去った後で、私の娘春香が主を恋い慕う時、月の明るい深夜に、積もり積もった心配で、幼い娘が主人を自然に思い出し、草堂の前の踏み石の上で、煙草に火を付けてくわえ、あちこち歩き回って、火花の出るような憂いと、主を想う気持が心から噴き出て、がっくりと涙を拭き‘ふう’とため息を長く吐き、北を指差し、漢陽(ハニャン)におられる道令様も私と同じように思っていて下さるか、無情にも全く忘れて、手紙一枚もくれなければ、たくさんのため息とこぼれ落ちる涙で、美しく可愛いい顔がぐっしょりと濡れるのです。

 自分の部屋に入って、衣服も脱がず、孤独な枕の上で、壁を抱いて寝返りし、夜遅くまで長いため息をついて泣くのは病気でなくて何でしょうか。憂いと想う気持ちでかかった重い病を私が治してやれず、怨めしく死んだなら、当年七十才の老いた私は、娘を失い、婿を失い、太白山(テベクサン)のカラスがカニの足をくわえてから落としたように、頼る所のない孤独なこの私の身は、誰を信じて生きればよいのでしょうか。他人にしてはならないことをしてはいけません。あぁあぁ、なんて悲しいことだ! そんなことをしてはいけません。何人もの身の上を台無しにしようとして、連れて行かれないのですか? 道令様の頭は二つあったのですか? あぁああ恐ろしいこのはがねでできた鉄の仮面め」

とののしったのです。

 

(つづく)

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