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●ラブストーリー春香伝 (2009.8.17) 

(10)寂しい春香

 そう言って母はどっと飛び掛かかったのです。この話が使道の耳に入れば大騷ぎになるでしょう。

「すみません、お母さん! 春香を連れて行きさえすれば万事が良いのではありませんか」
「それで連れて行くうまい方法があるのですか?」
「あまり飛び掛からないでここに座ってちょっと話をお聞き下さい。春香を連れて行くにも、二頭の馬でかついで行くみこしに乗せて行こうとは思うのですが、それだと結局はこの話が知られることになるので他に方法がなく、私はこの息詰まるような中でも計略を一つ考えています。けれども、この話を口外すると両班に恥をかかせるたけでなく私達の先祖の両班がみんな恥をかくことになります」
「どんな話でそんなに良い話がありますか?」

「明日、内行(婦女子の家族)が出発される時、内行の後ろに位牌を祀った荷物が出て行くので、その後ろに私がつきます」
「それが一体どうしたというんです?」
「それだけ言えば分かるでしょう」
「私には良く分かりませんね」
「位牌は取り出して私の外着の袖に祀り、春香が腰輿(こしかご:仮の位牌や位牌を祀る小さいかご)に乗って行く外に手がありません。心配せず、気をもまないで下さい」  

 春香はこの話を聞いて道令様をじっと見つめていましたが、
「止めて下さい! お母さん。道令様をあまり急き立てないで下さい。私たち母子の一生の行く末は道令様の手の中に握られていますので、御承知の上、おっしゃる通りにして下さい。この度はどうしても別れる外に方法がございませんので、どうせ別れるからには、行かれる道令様をそんなに急き立てては息が詰まるのではありませんか? お母さん、もう止めて。向こうの部屋へお行き下さい」
「明日はお別れになるようです。あぁあぁ、私の身の上よ! この別れをどうすればよいでしょう。ねえ、道令様!」
「どうして?」
「あなた、本当に別れるつもりですか?」

 ろうそくの火を掻き立てて二人で互いに向き合って座り、去って行くことを思い、見送ることを思うが気持がぼーっとしてしまうのです。ため息と溢れる涙でむせび泣き、顔をくっつけ手足も撫でて、
「私がお目にかかれるのは幾夜でしょうか? あぁ切ない! 良くない振る舞いも今晩が最後ですが、私の悲しい心情をお聞き下さい。六十才に近い私の母親は、一家親戚(同姓と異姓のすべての血族)が一人もなく、ただ一人娘の私だけです。道令様に寄り掛かって高い身分になろうと願いましたが、神様が妬み、鬼神が邪魔をしてこのような境遇になったのですねぇ。あぁあぁ、私のこの事情! 道令様が上京されれば私は誰を信じて生きて行くのでしょうか? 千秋に身にしみる私の想い、昼夜の想いをどうすればよいのでしょう。梨の花、桃の花がぱっと咲く時、水辺の行楽をどのようにし、黄菊、紅葉が深まり行く時、寂しい季節をどうすればよいのでしょう。夫なしに暮らす妻の長い長い夜に、寝返りばかりして眠れないのをどうすればよいのでしょうか。吐くのはため息、注ぐのは涙です。寂しくてむなしい江山、月の明るい夜に、ホトトギスの鳴く声を誰が耳を塞いでくれるのでしょうか、春夏秋冬の四季に、幾重にも重なり合った景色を見るのも胸苦しく、聞くのも悩ましいのです」

 

 あぁあぁ、と悲しく泣く時、李道令が言うには、
「春香、泣くなよ。夫は蕭關(ソガン)へ国境を守る民兵の暮らしに行っていて、愛人は呉の国に残っているという話もあるのだ。騒乱の中で王の命令に赴く者達と、呉の国の征婦(出征した軍人の妻)達も東へ西へと行った主を恋しがりながら閨中(キュジュン:婦女子の住むところ)で深く老いて行き、出征した軍人は妻からどれだけ離れていることか、緑水の芙蓉の蓮の根を掘る女子は、夫婦との付き合う情が深く、月光の淡い秋の山の静かな時、蓮を育てつつ主を想うが、私が上京した後にでも窓の外の月が明るければ、遠く離れていても心配しないでほしい。お前を置いて行っても、私が一日二十四時間、どうして忘れて知らん振りでいられるだろうか。泣くな、泣くな」

 春香が、また泣き声で、
「道令様が上京すると、杏の花が咲き、春風が吹き、街中の至るところで見渡す限り美しい色となり、方々で風楽の音が流れる所には花月がありましょう。好色な道令様が昼夜となく贅沢な生活をなさる時、私のような遠い田舍のめかけのことなどは、爪の先ほども思われないことでしょう。あぁあぁ、私のことを!」

「春香よ、泣くな。漢陽城南北の村には玉のような女子と、美しい女子が多いだろうが、閨中での深い情はお前以外にはないのだから。私がいくら大丈夫(ますらお)であっても、片時の間もお前のことを忘れるものか」
お互いに気が滅入って、永久に離れられない様子でした。

 そして去って行こうとする時、道令様のお供をするしもべの使令(官庁の小役人)が、ふうふう言いながら入って来て、「道令様、早くお出掛け下さい。内殿で大騷ぎになっています。使道様が‘道令はどこに行ったのか?’とおっしゃったので、私めが‘遊び友達に別れの挨拶をしようと門の外にちょっとの間お出掛けになりました’と申し上げましたので早くお戻り下さい」
「馬は待たせてあるか?」
「馬はお待ちしております」

 白馬は勇んで長くいななき、青娥(美人の別称)は別れに耐え切れず、衣服をただ握り締めるのでした。馬はいさみ蹄(ひづめ)を打ちつけるのですが、春香は板の間の下でがたっと崩れ折れて道令様の脚にすがりつき、
「私を殺して行くなら行け。生かすのなら行くな行かないで!」
と、言葉にならず気絶したので、春香の母が飛び出してきて、
「香丹(ヒャンダン)! 冷たい水を早く汲んで来て。お茶を煎じて、薬をもってきなさい。お前、このひどい娘! 年取ったおふくろをどうしようとしてこんなに体を痛めるの?」

 春香が正気に戻って、
「あぁ、息が苦しい」
春香の母はがっくりして、

「おい!道令様、他人様の元気な子供をこんなことにして何ということですか?筋を通せない私の春香が悲しみの余り死ぬことになれば、頼る所のない孤独なこの私の身の上で、誰を信じて生きろというのですか?」  

道令様は呆れて、
「これ春香、お前一体どうしたんだ? 私と永遠に会わないつもりか? 川にかかる橋で日の暮れる頃、はかない雲が生ずる蘇通国の母子の別れ、出征した軍人の夫がいる関山からどこまでも遠く離れた呉と越の美人の夫婦の別れ、私以外のみんなは挿茱(スユ:山に上がって邪気を退けるために頭につける実のなる木)をつける龍山の兄弟の別れ、西の方の関門を出れば友達はいないだろうが渭城の朋友の別れ、そんな別れがたくさんあるといっても、消息を聞く時があり、互いに会う日があったのだから、私が今から上京し、科挙に首席合格して出世をし、お前を連れに戻るから、泣くのは止めて元気でいなさい。石でも望頭石(墓の前に立てた石柱)は、千万年経っても壙石になることが出来ず、木でも相思木は、窓の外にすらりと立って一年間、春節が過ぎても葉が出ることが出来ず、病気でも、怒りのために起こった病気は寝ても覚めても忘れることが出来ずに死んでしまうのだ。お前が私と会おうと思うなら、悲しがらずに元気でいなさい」

 春香は仕方なく、
「道令様、私の手酌のお酒でも最後にお召し上りください。お食事もされずに出発なさるなら、私が差し上げる重箱を持って行って、宿や休憩所でお休みになる時に私と会っているような気持ちでお召し上り下さい。
 香丹や! 重箱と酒瓶を出していらっしゃい」  

 春香が酒を一杯なみなみと注いで、涙と混ぜて差し上げながら言うには、
「漢陽城(ハニャンじょう)に行かれる途中、川岸に立ち並ぶ青い木は私の別れの悲しみを表しています。ご覧になられたときは是非私の情を思い出して下さい。美しい頃合となって、細かい雨がぱらつけば、道を行き来する人の胸は物思いではち切れそうになるでしょう。馬に乗ったままで、くたびれて病気になってしまわれないか心配ですので、かぐわしい草が生い茂る中で暮れ行く頃には、早く宿に入って休み、朝方、風雨になれば、出発を遅くし、一日に千里も走る竜馬だとしてもお供する人もいないのですから、くれぐれも千金にも匹敵するくらいの貴いお体に気を付けてゆっくりとお歩き下さい。青い街路樹が生い茂って立ち並ぶ秦の国の漢陽道のような道を通って無事に到着なさったら、消息をお聞かせ下さい。時々はお手紙でもお出し下さい」

 道令様が言うには、 「消息については心配するな。瑶池の西王母(古代の仙女、西王母が周穆王と出会い、瑶池で宴を張ったこと)も、周穆王に会おうと一対の青い鳥を飛ばして、数千里もの遠い遠い道から消息を伝えたし、漢武帝の中郎状は上林苑(サンリムウォン)君父前(クムフジョン)に向けて一尺もする錦の書を送ったが、たとえ白い鳩と青い鳥がいなくとも南原人便(南原の人による郵送)があるではないか。悲しがらずに元気でいなさい」

 と馬に乗って別れの挨拶をすると、春香が気落ちして言うには、
「私達は、道令様が行く行くと言われても、本気にはできなかったのですが、馬に乗って背を向けられるからには本当に行くのですね」

 春香は馬夫を呼んで、
「馬夫や、私は門の外に出られないから、馬を掴まえてちょっと止まっておくれ。道令様に一言申し上げたいことがある」

 春香が飛び出して、
「道令様―! 今お行きになるといつお帰りになれるのですか。四季の消息が絶える絶(ジョル)、時を過ごすと全く永絶(ヨンジョル:永遠に絶えること)、緑竹、長松、柏の傾くとき万古忠節(マンゴチュンジョル)、千の山に鳥飛絶(チョビジョル:鳥の飛ぶ軌跡がなくなる)、病気で伏して人事絶(インサジョル:連絡が途絶える)、竹節(チュッジョル)、松節(ソンジョル)、春夏秋冬四時節、途絶える断絶、毀絶(フェジョル:節度を破り)、道令様は私を捨てて迫切(パクジョル:薄情)にも行ってしまうが、やるせない(ソクジョル) この私の貞節、夫がなく妻がひとりで過ごすことを守節(スジョル)するとき、いつの日か破節(パジョル:節度を破る)となるか。妾の無邪気な罪で苦しい思い、悲しい曲折、昼夜の想い未絶のとき、なにとぞ消息を頓絶(トンジョル:途絶える)して下さいますな」

 と言って、大門の外で崩れ落ちるように倒れ、か細い両手で地面をどんどんと叩き、
「あぁ、あぁ、私の人生!」
「あぁ」の一声で、口から出たのは、

 黄色の埃が舞い上がり
 風は寂しく 
 旗がきらめかないから
 日の光さえも薄くなっている

 前にのめり倒れながら、気持ちがすっきりせずに出て行く様子では、何日掛かかっていくのでしょうか。道令様が乗られた馬は駿馬加鞭(素早い馬)ではなかったでしょうか。道令様が涙を落とし、後のことを約束し、馬に鞭を打って、行ってしまわれる様子は狂風に吹かれる千切れ雲のようでした。


 この時、春香はすることがなければ眠ることにしていた寝室に入って行って、
「香丹! たますだれをまくり上げ、クッションの下に枕を置いて門を閉めて。起きている間は、道令様に会うあてなどないのだから、眠って夢ででもお会いしよう。昔から夢の中で見るやって来た主は信じるものがない、と言われているが、夢の中でなければどうやって会うことが叶うだろう。

 夢よ、夢よ、私の所においで。物思いが積み重なって恨となり、夢をつかむことができないのをどうすればいいのでしょう。あぁあぁ、こんな私! 人が別れるあらゆるものの中で、夫のいない妻の暮らしはどうすればよいのでしょう。夫を恋い焦がれ、眠れない私の心情。誰がそれを分かってくれる。狂った心、あれこれと散ばっている心配、不安を追いやり、みんな捨ててしまって、眠っても、横になっても、食べて目が覚めても、夫に会えず、胸が重苦しい。夫の子供じみた様子、きれいな声が耳に残って聞こえてくるようです。会いたい、見たい、あの人の顔を見たい! 聞きたい、聞きたい、あの人の声を聞きたい!」

「前世で何の怨みがあるか、私達二人が生まれて来て、恋しくて相思相愛の人に出会って、忘れないという最初の誓いをし、死ぬのは止めて一緒にいて、夫婦の一生の契りを結ぶ誓いをしたけれど、千金珠玉(くすだま)は夢の外のこと。世間のすべてのことに何の関係があるのでしょうか。源から流れて水となり、深く、深く、もっと深く、愛は集まって丘となり、高く、高く、もっと高く、絶えることがないというのに、なぜ崩れてしまうのでしょう。鬼神が邪魔をし、神様が妬むのでしょうか」

「一晩の間に、夫と別れたが、いつまた会えるのでしょう。あらゆる心配と思いが一杯になって、とうとうすすり泣いてしまった。玉顔雲蒄(女子の耳の下の見事な髪)も空しく老いていくことを恨んでみても、太陽と月はあまりにも冷たく通り過ぎていく。梧桐(あおぎり)の葉が落ちる月の明るい夜には、どうして夜明けがこんなに遅いのでしょう。緑陰の草に斜めに日が射す所では、どうして日がゆっくり進むのでしょう。この恋しい気持ちを察すれば、夫も私を恋しく思ってくれているだろうが、夫のいない妻が一人きりで寝て、ただため息だけを相手として、深い心の奥底が曲がりくねり、噴き出していくのは涙ばかり。涙が集まって海となり、ため息をついて風となれば、小さな舟をつかまえて乗り込み、漢陽の夫を訪ねればよいかもしれないけど、なぜそんなふうにしか会えないのでしょう。憂愁明月とよばれる月の明るい時に心から香を焚きお祈りを感じるのだから、明らかに夢なのです」

「月のかかった夜、ほとどぎすの声は、主のおられた所でも聞こえるだろうが、心中に物思いを抱いているのは私一人だけ。夜の光は薄暗く、ちらちら光るのは窓の外の螢のあかり、夜は深く真夜中になっても、そこにいたからといって夫が来るでしょうか。横になったからといって眠りがやって来るでしょうか。夫も眠りもやって来ない。どうしたらよいのでしょうか。まあ、これが本当の怨みというものでしょう」

「喜びがわれば悲しみが来て、苦労が終われば楽しさが来るという昔からの言葉だけれども、待つことも短くなく、恋い慕ってからも長い時間になります。哀しく気がめいる気持ちに、びっしりとこびりついた恨みを夫でなければ誰が晴らすことができるのでしょう。全てを見通すことができる神様よ、どうかそのお力で早く会えることを願います」

「尽きることのない人情は、もう一度会ってともに白髪となって、命尽きるまで、離れることなく暮らしたい。緑水青山に問いましたが、私の夫は憔悴した旅の姿で、突然別れ、その後で消息すら途絶えてしまったのでしょう。人は木や石ではないのだから、夫もきっとそう感じていることでしょう。あぁあぁ、私の人生!」

 春香は空を仰ぎ見て嘆き、大きなため息をつき、歳月を送ったのですが、この時、道令様は上京の途中、宿に泊まるごとに眠れず、
「会いたいなぁ、私の恋人に会いたいなぁ。昼も夜も忘れられない私の恋人、私を見送り恋しがる心を、早く早く晴らしてやりたい」

 日は行き、月が過ぎるにつれて、日は長く、月は深く、固く心を決め、科挙の甲科に一位で及第することだけを待っていたのでした。

 

(つづく)

 

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